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ライフタイム・ホームズ ~時間軸の変化に対応できる住まいづくり~

ライフタイム・ホームズ ~時間軸の変化に対応できる住まいづくり~

知り合いのライターさんから1冊の本「体験的ライフタイム・ホームズ論 ~車いすから考える住まいづくり~」を勧められました。大学の研究室に在籍中に病に倒れ、以後車いす生活となった建築家の丹羽太一氏とその妻で建築家の丹羽菜生氏が、自邸を初めとして、イギリスの設計基準「ライフタイム・ホーム」をベースに設計した住宅など、現在建築家として取り組んでいる「ライフタイムデザイン」について論じています。

ライフタイム・ホームズとは

1992年にイギリスでスタートした、身体機能とともに時間軸の変化にもフレキシブルに対応できる住宅の設計基準です。この設計基準の軸となる16項目を、NPO法人高齢社会の住まいをつくる会が、日本語訳にして分かりやすくまとめたものがこちら↓です。

http://kourei-sumai.com/01npo/pdf/lth-uk.pdf

設計基準というのは、数値化された技術的な内容になりがちですが、ライフタイム・ホームズは具体的でありながら、誰が読んでも理解できる分かりやすい言葉で表現されています。

そして家というのは、住人にとっての利便性だけではなく、その住人を取り巻く人々、例えば家族、友人や知人、サポートを行う人にとっての利便性も重要であることが読み取れます。

例えば、基準8「エントランス階にあるリビングルームについて」では、原則として階段の昇降に支障のある来訪者も通すことのできる、皆で集えるようなスペースを用意しておくこととあります。

都市部に多い2階にリビングルームがある一戸建て住宅では、車いすの利用者は玄関がある1階まではたどり着けますが、ホームエレベーターがなければ、自力で2階のリビングルームに行くことはできません。これまでのバリアフリー住宅は、あくまでもそこで暮らす人のためでしたが、ライフタイム・ホームズでは、身体が不自由な人がいつでも遊びに行ける家づくりまで目指していることが分かります。

ライフタイム・ホームズができた背景は

「体験的ライフタイム・ホームズ論 ~車いすから考える住まいづくり~」の中で、丹羽太一氏は以下のように語っています。「イギリスでは施設に入っていた障害者たちの、自分の家に住みたい、地域に住みたいという声を受け、福祉政策を施設から在宅への転換を求める運動があった。~中略~その中で90年代、日本で言えば地域包括ケアにあたるコミュニティ・ケアで、自宅を中心に福祉サービスを受ける方向に変わり、それに対応するあり方としてライフタイム・ホームズが生まれた。」

団塊世代が75歳以上になる2025年までに、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進するという国の動きと、イギリスにライフタイム・ホームズができた背景は、とても似ています。

ライフタイム・ホームズの可能性

ライフタイム・ホームズの設計基準を全てクリアするためには、広いスペースと過剰な設備が必要だと思われるかもしれませんが、そこでライフタイムという時間軸が重要になってくるのです。設備やスペースは、今の状況で必要なレベル、広さで計画し、近い将来もしくは遠い将来、自分のライフタイムによる変化に沿って、柔軟に対応できる家にするための指針として、この設計基準を活用していくのはどうでしょう。特に広さについては、○○㎡以上という基準ではなく、「車いす」が通れるそして回転できる広さを最小限確保し、その上で空間構成を考えていきます。現在の日本の空き家対策やリフォームに対する行政の動きは、数値化しやすい耐震と省エネを中心に動いていており、ここに数値化されないライフタイム・ホームズのような考え方をゆるやかに取り入れて行くことは、上述した地域包括ケアシステムの構築推進にも役立つと期待しています。

阿比留美和

阿比留 美和 (あびる みわ)

一級建築士

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